WRITING:密着記事 /だいごみストーリー3

OVERVIEW

食と人と、そこにあるものがたり。

YEAR 2018

WRITING THEME

密着記事から、食にまつわる情景を描き出す。

scene3

おとんのしょうが焼き弁当。

ここは都内で暮らす

ある親子のお宅のキッチン。

お父さんは毎朝ここで、

学校へ通う息子のために

お弁当をつくっている。

そして、今日はしょうが焼き弁当の日。

おとんと息子、ときどきマッチョ、の

お弁当にまつわるストーリー。

作りがいは、「おいしい」のひと言。

 朝6時30分、おとんの一日が始まる。

 平日は毎朝同じ時刻に起床。そして、キッチンへ。息子のお弁当を30分でつくり、家を出る前に渡す。これは、仕事の都合や飲み会で帰宅がどんなに遅くなっても変わらない、おとんが欠かさず続けている日課だ。そして、その姿を愛犬のマッチョは、いつも足元で見つめていた。

 この家に暮らしているのは、おとんと息子の二人、そして愛犬一匹。

 おとんは言う。「いろんな家族のスタイルがあって僕とパートナーの関係が変わっても父は父だし、母は母。息子が不自由に感じるようなことはしたくない。お弁当もそのひとつ。だって、毎日外食にするのはダメでしょ?」。

 今日のお弁当のおかずは、生姜焼き弁当。こだわりのたまねぎベースのソースに豚肉をつけて、こんがりキツネ色になるまでフライパンで焼いていく。その前には、ブロッコリーをゆがいて、卵焼きをつくり、お弁当のおかずをひと通り準備していたおとん。その流れに無駄がなく、卵をといている手元にもどこか余裕が感じられた。

「年の離れた妹がいて、小学生の頃から料理をするようになった。鍵っ子だったから、というのもあったんだけど、実家にあった『暮しの手帖』を教科書にして、中華炒めや麻婆豆腐をつくって、中学生に上がるころには、ある程度の家庭料理は作れていたかな」。

 おとんが料理を始めたのは、兄弟や友だちの面倒見がよい根っからの兄貴肌体質がきっかけだったのかもしれない。調理が好きなのではなく、誰かが「おいしい」と言って食べてくれる。おとんにとっては、それだけで十分だった。


お弁当をつくる人、それを受け取る人。

「前日のうちに、おかずのイメージを固めていた方がお弁当の出来上がりがよくなる。その逆で、朝起きてから何を入れるか考えると、見栄えがすっごく茶色くなったりして、失敗する可能性が高い」とおとん。調理風景をそばで見ていると、料理上手に見えるが、やっぱり過去には失敗を繰り返してきたようだ。

 そんなおとんに、お弁当づくりで大切にしていることを聞いてみた。「色合いや栄養のバランスは気をつける。あとは汁物をさけるとか、冷めてもおいしいおかずを入れるとか、1週間を通して献立を組み立てるようにすることかかな。まあ、これは当たり前のことなんだけど(笑)」。

 お弁当のフタを開けるときに沸き起こってくる、ワクワク感。この感覚は、きっと誰しもが学生時代に経験したことがあるはずだ。「今日は何が入っているのかな?」と期待が高まる。そして、その期待に見事答えてくれるのが、生姜焼き弁当だったりする。がっつり食べてお腹を満たせば、午後の授業でもう一踏ん張りできるってものだ。

 おとんがつくる生姜焼き弁当には、たまねぎソース以外に、もうひとつこだわりがある。「高級な豚肉を使うのは毎日だと無理があるから、せめて調味料にはこだわっていいものを選ぶ。しょうが焼きだったらみりん。料理酒や味噌などの調味料もちゃんとしたものを使うようにしているよ」。息子のお弁当をつくりながら、そんな風に料理の話をするおとんは、優しい笑顔になっていた。

 お弁当を毎日つくるという日課。その日課に、重圧を一切受けることなく、楽しそうにおかずをつくるおとんの姿。それを見ていると、これはどこの家庭も同じことなのかもしれないと感じた。自分のためにお弁当を楽しんでつくってくれる人がいるからこそ、そのことに対して、「ごちそうさまでした。おいしかったです」と私たちは心から言えるのだろう。


INTERVIEW

昨日作ったチキンフライ、あれは失敗だったな……(笑)

 毎日のように、仕事終わりは自宅近くのスーパーへ寄り、買い物を済ませる。そして、レジ袋を持って家路につく。毎週、新鮮で旬な野菜がデリバリーで自宅に届くため、スーパーで買うのは野菜以外の食材が中心。

「今晩の夕食や明日のお弁当をつくるのに足りていない食材を、スーパーで買っている。自宅にある冷蔵庫が小さいから、毎日買い物へ行かなければなんだけど、どんどん冷蔵庫に食べきれない食材が溜まっていくよりはマシかな」

 冷蔵庫に入っている食材を考慮して、何を買い、何を作るのかを適宜に決めていく。そして、食材を余すことなく使い切り、毎日楽しめるご飯をつくる。これらは、主夫や主婦たちの手腕にかかってくるところ。ときに、その家庭独自のオリジナルレシピも生み出されながら、毎日の食卓は豊かに豊かに彩られていく。

「時々、2つの料理を組み合わせたらどんな味になるのかな、と思って挑戦するのだけど、失敗することもある。それでも、自分流のオリジナルレシピを考えるのは楽しいし好き。それに、いろんなお店で食べたおいしい料理があれば、つい挑戦してみたくなるんだよね(笑)」。おとんのレシピ開発への挑戦は、まだまだ続いていくようだ。