UX/UI(ベトナムでのVMD教科書プロジェクト)
ベトナム初のホームセンターにて、VMD(商品の陳列方法等の最適化)ノウハウをベトナム人スタッフに理解・議論・浸透していただくため、教科書を作るプロジェクトを行いました。
教科書制作に至る経緯(課題)
・日本のホームセンターでは、VMD(商品の陳列方法等の最適化)ノウハウが自然に共有され、店舗毎に実践されている。ただしそれらは日本人スタッフにとっては当たり前のこと=暗黙知になっているため、日本人店舗経験者にとっては、店舗の作り方を一から説明することが難しい。
・ベトナムは離職率が日本と比べて高いため、暗黙知ができるかどうかという段階でスタッフが辞めてしまう。その結果、暗黙知の移転、浸透が進まない。
上記を解決するために取り組んだこと
・接客なしでも買ってもらえる店舗のポイントが、ベトナム人スタッフに理解されており、ベトナム人スタッフ自身で効果的な店舗を作れる(かつ、それが属人化しない) 状態を作る必要がある
→ そのために、まずは日本人マネージャーが持っているVMDノウハウを教科書としてまとめ、形式知にすることで、日本人・ベトナム人の議論の土台を作る
実施内容① 議論の土台とすべき情報の精査
- 本教科書はベトナム人スタッフが使用する。読み手としてのスタッフ像は以下。
◆1.ホームセンターを見たことがない
→ 「DIYって何?」「売ってるものを買えばいい。何故わざわざ自分で作る?」
◆2.陳列方法や接客で、客の購買行動は変わったりしない、と考えることが多い
→ ベトナムは社会主義国のため、若い世代であっても「どう陳列・接客しようが、顧客は必要なものなら買う」「良い店とは品揃えのいい店」と考える傾向がある
→ そもそもベトナムは人口動態・経済レベル的に、1960年代(高度経済成長期)の日本と似たような状況である。そのため「店舗に商品を置いておけば売れる」というのがある程度は事実なので、マーケティングや陳列改善の意味・必要性がスタッフに理解されにくい部分がある - 手に入ったVMD書籍から、必要そうな情報を抽出
→ ネットでの情報は非常に断片的なので書籍が必要だが、VMDは電子書籍がほとんどない。また検閲の問題で、日本からベトナムに書籍を送ることが難しいため、日本に帰国予定がある人に、ハンドキャリーで持ってきてもらえないか依頼して入手
→ 上記の書籍から本質的と思える情報をリスト化。取り扱うべき内容イメージが合っているか、日本人マネージャーと方向性をすり合わせた - 日本人マネージャーは複数おり、店舗経験によって店の作り方が全く違う。
そのため「前提(認識の土台)として、何を理解してほしいのか」を設定するために、約2か月かけて、かなり事細かに話し合った(その結果は、下記を参照ください)
実施内容② 教科書作り
- 上記実施内容①を踏まえ、日本人・ベトナム人の議論の土台とするために、「ホームセンターとは何か」「どんな価値があるか」という大前提を最初に入れた。
その上で、前半にごく簡単なマーケティング知識、後半に具体的なTIPSと改善の手引きを入れる、という構成にしている。
1.ホームセンターとは何か
2.顧客が店に入って商品を購入するまでに、どういう動機や感情をもつのか
3.店全体のうち、どこが集客ポイントになるのか
4.陳列の具体的な方法
5.店舗を改善するために、何をすればいいか
仕様
- (多くはITに強くない)店舗スタッフが随時修正することが大前提となるため、PowerPointで作成
- 「最初からあまりかっこいい教科書だと後から手を入れにくくなるので、見た目はダサいくらいでいい」とのオーダーがあった。そのため見た目のかっこよさより、わかりやすさを最優先に作成。また、初版以降も手を加えやすいようにフリー素材のイラストを使用。
- ベトナム人スタッフが常にポケットに入れて持ち歩けるよう、片手で持てるくらいの大きさ・厚さに製本することを想定。
- 陳列方法の理論とイメージが同時にわかるよう、左半分はテキスト+右半分は図解になるように作成。
最終的な成果物
最終的に、約60ページの教科書が完成。教科書は中野が日本語・英語で作成し、その後ベトナム語に翻訳されてベトナム人スタッフに紙面配布された。
教科書作成のその後(成果)
教科書完成の2か月後、本クライアントはベトナム南部に2店舗を追加開店という、急速な拡大を迎えることとなった。
その際一緒に教科書を作成いただいた担当者からは、下記のコメントをいただいた。
本マニュアルを渡してベトナム人スタッフ同士で読んでもらったり、読んでもわからないことだけを日本人マネージャーに質問をしてもらうことで、マネージャーの負担が目に見えて減っている。
自分達日本人マネージャーだけでは、3店舗すべてのスタッフなんて管理できない。『まずはこれ読んでおいて!』と言えるものがなければ、とっくに破綻していた。
このプロジェクトをやっておいて本当に良かった!!
その後はこの教科書をもとに新人研修をつくったり、店舗改善による売上の変化を数値で追うなどしたことで、売上は順調に上がっているとのご連絡をいただいている。